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<<   作成日時 : 2013/08/22 20:47   >>

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ACADEMIA No.141(2013年8月号)pp.29-33

測定を通して知る放射能汚染の実態
河野 益近

はじめに
 放射能による環境汚染は原爆の開発とともに始まる。ウラン鉱山からのラジウムを含む鉱滓、再処理工場の稼働、核実験、核兵器の使用、原潜の解体、劣化ウラン弾の使用、原子力発電所の稼働・事故などか汚染の原因である。過去に起こった生活圏での放射能汚染を見れば、今後福島第一原発事故から放出された放射能の影響を推測することができる。
1954年、ビキニ環礁で行われた水爆実験による放射能によってマグロ延縄漁船第五福竜丸が被災し、その後南太平洋で獲れるマグロが放射能に汚染されその多くが廃棄された。水爆実験の放射能によってロンゲラップ島を追われた住民は現在でも帰島できないでいる。ロンゲラップ島はビキニの核実験場から約240kmも離れていのである。
27年前(1986年4月26日)に事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所4号炉はいまだに廃炉作業が終わっておらず、事故後緊急に建設されたコンクリート建屋(石棺と呼ばれている)は崩壊の危機にあり放射性物質の再放出が懸念されている。チェルノブイリ原発から30kmの範囲はいまも人の居住が認められていない。原発事故による汚染(Cs-137の汚染が1Ci/km2 = 37,000Bq/m2)の範囲は事故炉から最長700km近くにまで達する。
 ここでは、私が測定した原発事故からの環境放射能の結果をもとに、福島第一原発事故の今後の影響の一端を推測し、僅かではあるが私たちができる対応について簡単に述べることにする。

小児甲状腺がん
 当時チェルノブイリから飛んできた放射能の測定を行い、その結果を公表した[文献1]。その一つが、松葉に含まれる放射性ヨウ素-131の時間変化である(図1)。この図は一か月程度高濃度汚染地域から避難していれば放射性ヨウ素の被害から免れることを示している。かりに避難できないかった場合でも、1ヶ月程度汚染した農作物の摂取を制限すれば放射性ヨウ素による内部被ばくを低減できることを示している。
図2にはウクライナにおける子供の甲状腺がんの手術年を横軸に、縦軸に手術時の子供の年齢が示されている[文献2]。この図から子供の甲状腺がんに対する放射性ヨウ素の影響をはっきりとみることができる。それは直線(この直線は1986年に生まれた子供の年齢を表している)よりも下の年齢では甲状腺がんの発症がほとんど見られないことから判断できる。グラフの上限が14歳で止まっているのは、15歳以上は大人の統計に入るためであって、甲状腺がんの発症が無いわけではない。図3にウクライナにおける小児甲状腺がんの発症数を示してある。10万人当たりの割合[文献3]を絶対数で示したものである。ベラルーシでも同じ傾向である[文献4]。
その後も残留する放射能の影響は別としても、わずか1ヶ月関東・東北の子供たちを避難させていれば、せめて汚染食品の摂取を制限していれば、今後20年以上続くであろう小児甲状腺がんの発症リスクは回避あるいは軽減できたのである。
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環境汚染
 福島第一原発事故で放出された放射能は、量の多少を議論しなければ、47都道府県すべてから検出された[文献5]。図4の左がチェルノブイリ原発事故後、右が今回の福島第一原 発事故後の放射性ヨウ素の汚染状況である。同じ県内でもその放射能レベルは大きく異なっているので、複数地点の測定結果のうち最大の値を示したものをその県の代表として示している。日本という視点で見た場合、日本全体の汚染状況を把握するという目的は達していると考えている。日本でチェルノブイリ原発事故による放射能の影響が報告されていない状況を考えると、関東・東北を除く多くの県で福島第一からの直接の放射能の影響が現れることはないと思われる。
図5は放射性セシウムの汚染状況である。放射性セシウムは半減期が30年(Cs-137)であるため、100年(Cs-137が1/10に減衰)から300年(1/1000に減衰)その影響が残る。汚染地域の多くを占める森林の中では、事故直後には表面付近に存在した[文献6]放射性セシウムが、ある程度深い層(2013年現在、腐植土の10~20cm程度)にまで浸透していると推測される(表に岩手県矢越山で測定した放射性セシウムの深さ方向の分布を示す)。腐植土のある場所と腐植土のない場所では放射能のレベルだけでなく深さ方向の分布も異なっている。この予備調査からわかることは、腐植土層が放射性セシウムを保持している可能性があるということである。放射性セシウムは土壌に吸着されるとあまり動かなくなる[文献7, 8]。土砂の流出によって放射能が人間の生活圏(農地、河川、海)に影響を与えないように今後数百年間に渡って森林が保持してくれるようにすること、すなわち除染できない森林を放棄するのではなく保全していくことが必要になるだろう。
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おわりに
 チェルノブイリ原発事故の影響でいまだに甲状腺がんが発症している現実を考えるとき、事故直後の専門家の発言やマスコミ報道に怒りを覚えるのは私だけだろうか。

参考文献
[1]「Circumstances of pollution by radioactivity released from Chernobyl in Japan and in Belorus」, M.Kohno et. al., Japanese Slavic and East European Studies, 17, 53 (1996).
[2]「Interaction of Pathology and Molecular Characterization of Thyroid Cancers」, E.D.WILLIAMS et al., EUR 16544 EN, 699-714 (1996).
[3]「3.2.4. Diseases of thyroid gland」, “≪Twenty-five Years after Chernobyl Accident: Safety for the Future≫”, National Report of Ukraine, 130-136 (2011).
[4]「ベラルーシの青年・大人の甲状腺ガン」、 ミハイル・V・マツコ、 “チェルノブイリ事故による放射能災害 国際共同報告書”, 今中哲二 編、技術と人間、218-222 (1998).
[5]「福島原発事故による日本全土の汚染マップ」、河野益近、西山文隆、現代化学、12月号、48-50 (2011).
[6]「別紙4 森林内土壌における放射性セシウムの深度別の蓄積状況の確認結果」、“文部科学省による放射性物質の分布状況等に関する調査研究(森林内における放射性物質の移行調査)の結果について”、文部科学省 (2011).
[7]「4. 放射性セシウムの溶出特性」、“放射性物質の挙動から見た適正な廃棄物処理処分(技術資料)平成23年12月2日第一版”、(独)国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター、17-29 (2011).
[8]「わが国の米、小麦および土壌における90Srと137Cs濃度の長期モニタリングと変動解析」、駒村美佐子ほか、農業環境技術研究報告24号、1-21 (2006)

参考資料
“死にすぎた赤ん坊 低レベル放射線の恐怖”, E・J・スターングラス 著、肥田舜太郎 訳, 時事通信社 (1978).
“棄民の群島 ミクロネシア被爆民の記録”, 前田哲男 著、時事通信社 (1979).
“広島・長崎の原爆災害”, 広島市・長崎市 原爆災害誌編集委員会 編、岩波書店 (1979).
“ウラルの核惨事”, ジョレス・A・メドベージェフ 著、梅林宏道 訳, 技術と人間 (1982).
“アトミックソルジャー”, ハワード・L・ローゼンバーグ 著、中尾ハジメ、アイリーン・スミス 訳, 社会思想社 (1982).
“被爆国アメリカ 放射線災害の恐るべき実態”, ハーヴィ・ワッサーマンほか著、茂木正子 訳, 早川書房 (1983).
“低線量汚染地域からの報告 チェルノブイリ26年後の健康被害”, 馬場朝子、山内太郎 著, NHK出版 (2012).
“調査報告 チェルノブイリ被害の全貌”, アレクセイ・V・ヤブロコフ、星川淳 監訳、岩波書店 (2013).

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