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zoom RSS (1989)チェルノブイリのこだま

<<   作成日時 : 2012/02/28 08:33   >>

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チェルノブイリのこだま


チェルノブイリのこだま


チェルノブイリ/その不審の本質を考える


チュコート半島で明らかになったチェルノブイリ規模の災害



イワンとミーシャの会 訳編



画像

(1989年10月)
004
(会のシンボルはスタジオ・クレイの水戸さんのデザイン)

----- 表紙 -----

001「チェルノブイリ原発事故から1000日」
http://kohno.at.webry.info/201202/article_9.html (その1)
http://kohno.at.webry.info/201202/article_10.html (その2)
002「チェルノブイリ/その過去と今後の展望」
http://kohno.at.webry.info/201202/article_13.html
003「チェルノブイリ・ノート」より
http://kohno.at.webry.info/201202/article_34.html (その1)
http://kohno.at.webry.info/201202/article_35.html (その2)
004「チェルノブイリのこだま」
http://kohno.at.webry.info/201202/article_42.html
005「チェルノブイリの後遺症は続く」
http://kohno.at.webry.info/201205/article_1.html (その1)
http://kohno.at.webry.info/201205/article_2.html (その2)
006「特別な注意を要する地域」
http://kohno.at.webry.info/201206/article_14.html (その1)
http://kohno.at.webry.info/201206/article_15.html (その2)
007「放射能ゾーンの子供たち」
http://kohno.at.webry.info/201209/article_2.html


(まえがき)

 ここに記載されている内容は、週間新聞〈モスクワ・ニュース(МОСКОВСКИЕ НОВОСТИ)》に掲載された記事を集めたものである。
 「核の利用」という人間の行為に対して、人間に返ってきた《こだま》、それがまさにチェルノブイリのこだまである。その第一段階が環境の放射能汚染であり、第二段階が記事「チェルノブイリのこだま」であり、最終的段階が記事「チュコート半島で明らかになったチェルノブイリ規模の災害」である。
 「チェルノブイリのこだま」の反響は大きく、そのため政府は反論を「チェルノブイリ/その不信の本質を考える」に掲載している。しかしその反論の質の低さには驚かされるが、唇と口腔のガンが2倍に増えているという現実は認めざるを得なかったようである。



----- i -----

チェルノブイリのこだま

項目

チェルノブイリのこだま                 ・・・・・ 1
編集者のノート                     ・・・・・ 5

チェルノブイリ: その不信の本質を考える        ・・・・・ 7
「チェルノブイリのこだま」に対する反論         ・・・・・10
編集者のノート                     ・・・・・14

チュコート半島で明らかになったチェルノブイリ規模の災害 ・・・・・19
編集者のノート                     ・・・・・22

----- ii -----

チェルノブイリのこだま
V.コリニコ


 ジトミール州ナロジチ地区は、チェルノブイリ原発から近い村で50キロメートル、遠い村で90キロメートルに位置し、原発事故のあと疎開の対象とはならなかった。しかし、1986年4月26日には東の風が吹き、雲が流れてきて、放射性の粒子を落としていった。この地域はいまでも地表での放射能濃度が1平方キロメートル当り80キュリー【1平方メートル当り296万ベクレル】を上回っている。
 昨年秋、記者がコルホーズの農婦パブリナ・ストルツカヤの自宅の敷地内で


画像

[写真]ジトミール州にあるペトロブスキー集団農場。測定器はキエフよりも148倍も高い放射線の値を示している。

----- p.1 -----

線量計を使って調べたとき、ガンマ線のレベルが毎時0.2ミリレントゲン【毎時2マイクロ・シーベルト】以下の所は1ヶ所もなく、ストルツカヤが隣人と立ち話をしていた門のところは毎時2ミリレントゲン【毎時20マイクロ・シーベルト】を超えていた。例えばキエフ市の自然のガンマ線バックグラウンドのレベルは毎時0.014ミリレントゲン【毎時0.14マイクロ・シーベルト】である。
 しかし、はからずも〈応用放射線学〉の専門家となった地区党委員会第一書記A.メリニクは、いま最も危険なのはこのことではないと考えている。彼の見解では、最大の問題は、放射性核種が食物と共に体内に入ってくることだという。最も〈汚染された〉村にはいまも食肉・乳製品が他の地域から移入されてきており、それらの購入用にすべての住民に1日1ルーブル【1989年現在、約205円】の補助金が支払われている。だがこれは問題の部分的な解決でしかない。きれいな食物は明らかに不足している。だから、医者の警告があるにもかかわらず、多くの人が地元の牛乳を飲み、依然として自家農園で果物や野菜を収穫している。
 「地区内の村を〈きれいな〉村と〈汚染された〉村に分けるなどという発想は、ここから遠く離れた役所にいるお役人だからできたのだ」と地区党委員会書記はくやしそうに言った。「放射性のほこりは風に乗ってあちこちに飛び、雨に混じって川にはいる。放牧はそこらじゅうで行われている」
 ソ連医学アカデミーのL.イリイン副総裁は、チェルノブイリ原発事故のあと、比較的少量の被曝線量は健康に何ら害を与えない、と再三にわたって言明した。しかし、事故の前には、次のようにはっきりと書いてある本が彼の監修のもとで出版されている。「被曝は、比較的少量であっても、条件反射活動を乱し、大脳皮質の活動電位を変化させ、分子や細胞レベルの生化学・代謝障害を生む」。副総裁の現在の楽天主義は万人を納得させるものではない。
 ペトロフスキー・コルホーズの畜産農場で、記者は頭がカエルに似た小ブタを見せられた。目の位置に、角膜も瞳もない大きな突起物があるだけだ。
 「これは多数の奇形のうちの一頭で、たいていは生まれてすぐに死んでしま

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うが、まれにこうして生き残る」とコルホーズの獣医P.クジンが言った。
 この畜産農場は牛350頭、ブタ87頭を飼育する小さな農場だ。チェルノブイリ原発事故前の5年間には、ブタの奇形はたった3件しか記録されておらず、子牛はすべて正常で生まれていた。チェルノブイリ原発事故後の1年間にはブタ37頭、牛27頭、計64頭が、1988年の1月〜9月の間にはブタ41頭、牛35頭が奇形で生まれた。小牛では頭や四肢がないもの、目や肋骨がないものが多く、小ブタでは目の異常や頭蓋の変形が多い。
 キエフには農業放射線学研究所がつくられている。はたして、学者たちはどう言っているのだろう。
 「学者たちはわれわれの農場には特別の関心を示さなかった」と獣医のクジンは言った。「彼らは奇形で生まれた家畜の死骸を数体調べて、こういう現象は放射線と何の関係もないさまざまな原因で起こり得るものである、と言った。私も獣医だからそれはわかる。しかし、奇形の統計を見て、やはり原因は一つ、きわめてはっきりしていると思わないわけにはいかない。というのも家畜用の飼料は放射性核種に汚染された畑で栽培されているからだ。そしてそれらの家畜の肉は、線量のレベルが基準値を超えているため、買付けの対象から外されている」
 前述の(事故前に出版された)本に引用されているソ連の放射線学の権威、A.グラシコワ、A.モイセエフ、L.ソコリナのデータによれば、組織線量がセシウム137で4.4マイクロキュリー【162,800ベクレル】あるいはストロンチウム90で0.4マイクロキュリー【17,600ベクレル】で人体に大きな変化が起こる可能性があり、こうした量が治療をおこなうための目安だという。
 ナロジチ地区の医療関係機関の統計によると、今日体内に取り込まれたセシウム137で1〜3マイクロキュリー【37,000〜111,000ベクレル】という数値は地区住民の35パーセント、3〜5マイクロキュリー【111,000〜185,000ベクレル】は4パーセント以上、5〜10マイクロキュリー【185,000〜370,000ベクレル】は約4パーセントとなっている。地区に住む子供たちの半数以上に甲状腺の疾患が見ら

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れ、しかもその多くが第二、第三段階のものだという。
 共和国の保健機関の指導者たちは、原発から30キロメートル以上離れた地域の人々の健康にはまったく危険がないと主張している。ところが、キエフで検査を受けている人々には具体的な情報がまったく伝えられていない。だが女性たちは、危険がないならどうして子供を生んでもいいと言われないのか不安がっている。
 地区党委員会書記A.メリニクはこう語る。
 「われわれの医者は住民の間に慢性疾患が増えていること、外科病院で術後に病状が悪化するケースが増えていることを指摘している。唇や口腔の癌など悪性腫瘍の年平均件数は2倍になっている。
 果してわれわれは危機的な状況にあるのか、それとも正常な状況にあるのだろうか。もしも危機的な状況の中にいるのなら、大規模な総合的対策が必要だ。現在とられている措置だけでは十分ではない」
 「全ての道路、全ての裏庭そして子孫に伝えるべき農場をアスファルトで覆わなければならない。現在でも放射線のレベルが4分の1以下に下がっていない地域では次のことが行われている。これらの地域の住民に対して、熱源としてガスを使用する準備がゆっくりとしたペースで進んでいる: しかし当分の間は主に薪が熱源となる。この地域では薪は使う前に洗うよう指導されており、かまどの灰を自家農園の肥料として使うことは禁止されている。」
 「この地域にはそれだけでは解決しない問題がある。例えば、原発職員のミスによって巨大な被害を受けた農民が、なぜトラクターに防護キャビンを取り付けるために自らの費用を使わなければならないのか? 放射能を帯びたほこりからトラクターの運転手を守るためのそのキャビンは、1台が1,400ルーブル【1989年現在、約287,000円】もする上に、数百台は必要なのである。」
 実際には、1ヵ月半か2ヵ月間、汚染地域の外で生活すればセシウム137

----- p.4 -----

は効果的に人間の体から排出されることが知られているのにもかかわらず、地域の指導員は住民に長期休暇を与える権限を持ってはいない。
 我々は法律にしたがって、政府に対してより多くのことを要求する。我々はそのことを確立しなければならない。それができれば、ナロジチ地区と同じような状況下の住民は、屈辱的な誓願者とはならないですむであろう。人々は、法律により、被害者に対して盲目であった当局に対して、十分な賠償を要求する権利、すなわちお願いするのではなく要求する権利を有するのである。住民が健康や土地の状況に関する情報を知る権利を有するのはいうまでもない。


編集者のノート

 この記事は掲載を準備していた時、モスクワで、キエフのG.シクリャレフスキー監督が撮った20分間の記録映画「マイクロフォン!」の試写会があった。撮影がおこなわれたのはジトミール州ナロジチ地区のまさにコリニコ記者が記事を書いた場所だった。記事の中に書かれていることすべてとその他の事実が1988年9月〜11月に記録されていた。
 映画は強烈な印象を与えるものだった。しかし、一般公開は検閲上の困難にぶつかった。現在、チェルノブイリに関するあらゆる作品は、さまざまな官庁の代表で構成されるソ連国家原子力利用委員会傘下の専門委員会を通さなければならないことになっている。そこで次のような条件が提示された。ソ連保健省からは、医療関係者のインタビュー部分を削る、ソ連国家気象環境監視委員会からは、線量計をもっている放射線監視員の映っているコマを削る、という条件だった。

----- p.5 -----

 しかしいずれにせよ、1月末に上映許可がおりた。映画「マイクロフォン!」は、事件を真剣に考え直し、チェルノブイリのこだまに耳を傾けるきっかけを人々に与えてくれるものと確信している。
【1989年2月19日付 モスクワ・ニュース No.8】

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チェルノブイリ
その不信の本質を考える


放射線の影響がある地域の住民は専門家の楽観的な考えに疑問を持っている。

 ウラジミール・コリニコの記事「チェルノブイリのこだま」(1989年2月19日付モスクワ・ニュース)は多くの反響を巻き起こす導火線となった。ジトミール州のある農場で、家畜の先天的な病気が原発事故の後にかなり増加した、という報告に多くの指導者たちは注目した。ウクライナ・プラウダ紙は特集を組んだが、その内容はソ連医学アカデミー放射線医学研究所の放射線部門の部長イレイ・リカタレフの「コリニコの記事を読んだ後では専門家はひにくっぽく肩をすくめる=vという言葉で代表されるような内容であった。――――― 立場のある人に限って、住民の健康とこれから起こることについては楽天的である。


 専門家の意見はどうであれ、編集者が受け取った手紙は彼らとは別の意見が大勢を占めていた。上述の農場(ジトミール州にある農場)から遠くないラギンスキー地区の農工委員会の農業指導者であるステファン・バシリュークは「常時

----- p.7 -----

画像

[写真]リューボビ・カレンスコイ
写真の中に
ТРЕБУЕИ ГЛАСНОСТИ ЧЕРНОБЫЛЕ
(要求する 情報公開 チェルノブイリの)
の文字が見える。


または時折り監視を要する地域に住み、働いているみなさん聞いてください」と訴える。「私たちの地区にある50の居住区のうち10ヵ所が、月に2度から3度《きれい》な食料品が運び込まれ、《収容所》と噂されている場所へ移住させられました。船で運ばれてくる食料品は不十分であり、そしてこの食料品の不足が原因で私たちは現地の汚染したものを食べなければなりません。私たちは詳細な汚染地図を入手していません。ほんの一年前、ウクライナ共和国農工委員会の議長代理アレクサンドル・トカチェンコは汚染地図は一つしかない。食料品を買うために外国へ支払う外貨を準備しなければならず、そのことが食料品が農場に供給されない理由である。≠ニ言っていました。
 私たちはといえば、大ざっぱでしかも校正されていない測定器(地域のガンマ線のバックグラウンド測定用)しか使用できませんでした。放射性核種による汚染が増加することによって、この地区の全ての農場は家畜・農地・農作物・……を犠牲にするという異常な体験をするこ

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とになります。委員会のメンバーで私たちの所にやってきた有能な専門家は(もちろん非公式にではありますが)、もし可能ならばこの地を離れるように、と忠告しました。大抵これらの忠告は医師によっておこなわれました。」
 ゴメリからの手紙には515人の署名があった。それもまた、外部から運ばれる《きれい》な食料品の不足や、個人用の線量計と医療設備の欠乏などについて書かれている。チェルノブイリ原発事故に伴う放射能は今後ずっと化学物質と共に人々に加え続けられる : しかも、ゴメリの放射線の強さは白ロシアで2番目に高い。その手紙は、現在警告が出されている場所を発見した科学者(アカデミー会員ニコライ・アモソフとアンドレヤ・ホロビエバ、そして医学博士であり作家であるユーリャ・シチェルヴァーカそのほか)の声明が引用されていた。
 しかし、モスクワ・ニュース紙は専門家たちによって、「チェルノブイリのこだまはとても根拠のある報道とは思えない」と非難された。

----- p.9 -----

「チェルノブイリのこだま」に対する反論

 感情的にびっくりするような例を掲載した記事はコルホーズ【集団農場】にある異常に高い放射線が観測された場所の写真を紹介した。ジトミール地方ナロジチ地区のペテロブスキー・コルホーズにあると伝えられるその場所は、記者の報道によれば人も家畜も重い病気にかかったり、死んだりしたという。
 われわれは放射能に汚染された地区に住むことによって感じる不安と、記者の住民の将来に対する懸念を理解する。しかし、おもに住民に関する話を集めた地方色の濃いその記事には、間違った前提と最終的な分析の中で人々を悪い方向へ導くような誤解がたくさんある。
 汚染場所にひそんでいる危険の程度を評価するための具体的な基準が、住民の受けた放射線量の合計である。放射線量は放射性降下物に汚染された地域に関する調査(外部被曝)と放射性降下物に汚染された食料品を食べることによって人体組織にとりこまれた放射性セシウム(内部被曝)の二つで決定される。
 ガンマ線のレベルを示しながら、その記者は、取材した農場の土壌はキエフよりもかなり高い放射性物質によって汚染されてしまっていることを示した(一部では150倍も高い ――― 編集者)。しかし、このことだけでは危険については何もわからないし、かえって住民を混乱させてしまうことになる。
 その新聞記事に掲載されている例では、放射性セシウムの割合によって決まる内部被曝に関する限り、その影響は医療から受ける被曝の100分の1以下である。
 ペテロブスキー・コルホーズに住む住民が受けた放射線量の合計は、ソ連保健省が決めた年間の許可線量(2.5レム【25ミリシーベルト】)よりも少なくとも50分の1以下である。人々の健康に関して不安に思う客観的理由は何もない。時間的にはまだ放射線の影響は現れないけれど、わずかの線量でも寿命短縮や細胞・器官の機能不

----- p.10 -----

全を起こす可能性がある。しかしそれらの機能不全は健康にとって危険ではないということをわざわざ示す必要はない ――― それらの機能不全は自然なことなのである。
 甲状腺機能が発育段階にある大勢の子供たちについての情報を明らかにする必要がある。この点ではウクライナと白ロシアのポレーシェ【プリビヤチ川流域の湿地帯】に問題がある。そこはどちらも、放射能に汚染されていなくても病気にかかりやすい地域である。その理由はボレーシェの土と水はヨウ素の含有量が少ない。したがって、この地では大きくなった甲状腺を持つ子供たちが自然の状態でも数多く存在する。現時点ではボレーシェで発生した悪性の甲状腺腫の状況を放射性降下物と関連づける理由はない。その記事を書いた記者は慢性病の数の増加や外科手術後の病気の悪化≠フデー夕も事故と関連づけている。医学用語を使うのはこの場合不適当である。例えば若者が都会へ出て行くことによって地区が高齢化するのと同じように、かなり進歩した診断技術と事故後の集団検診によって急性の病気よりも慢性の病気が見つかる方が大きいと言える。
 年平均のガン患者数の2倍の増加は、唇と口腔のガンは明白にその傾向が認められるが、その症状を確認したところ自然変動の範囲内にある。事故から経過した時間内では、一般にそのようなガンは発病しない。
 その記事は、ナロジチ地区に住む婦人たちが子供を生まないようにと忠告を受けたことを報告している。しかし、保健所はいかなる人に対しても決してそのような勧告を発してはいない。
 たとえ、放射性降下物によって汚染された地方に住む人々の健康に関する事故の影響について語る必要があるとしても、放射線によるものと、ストレスによるものとを分ける必要がある。現在議論しているような間違った噂や宣伝的な出版物はかえって病気、特に心臓疾患を引き起こすかもしれない神経系統に影響を与える。

----- p.11 -----

 記者は、新しく生まれた牛や豚の間に奇形が大量に発生していることについて語った記事の部分で、指導者たちに強い衝撃を与えた。記者は彼自身と指導者たちを誤った方向へ導いた。実際上市場向けの牧畜においては、何等かの影響を受けて生まれた若い動物のケースを特に記録し、記述するという習慣はない。家畜の病気治療の記録によれば、それらは(死産を含めて)「屠殺」という共通の項目の中に記録されており、その地方における平均値は牛で5.5パーセント、豚で12パーセント,羊で5パーセントとなっている。
 状況を明白にするために、その記事やその地区の獣医が述べている農場で1986〜1987年に生まれた64匹の奇形の動物に関して、書類としては残っていないデータを確かめた。また、全ソ農業放射線研究所ウクライナ支所の専門家は、1988年にペテロブスキー・コルポーズで記録に残されていた死産の牛の12のケース(3.4パーセント)についても調査した。母親の体内で発育中に起こる動物に特有な欠陥については、専門分野においては、特に驚くことではない。
 動物の子供にみられる奇形を放射線のせいにする理由は何もない。なぜなら、ナロジチ地区の農場の動物たちが受けた放射線量は、利用可能な世界の科学デー夕を基にして考えれば、影響が現れる最も少ない線量よりもはるかに小さい。
 新聞記事「チェルノブイリのこだま」の主題に対する批判的な見解を再確認しておこう。放射性降下物によって汚染された地域の放射線の状況の客観的説明に関していまだに影響を持っている「こだま」によって、唯の一人でも間違った方向へ導かれることは許されない。なぜなら、記事の後半のかなりの部分が批判を生むような事実をまげた言葉によって記述されている。
 少なくとも、流布している内容を厳密に、専門的に検証した部分に関する限り彼らに反省を求めることができる。

----- p.12 -----

コンスタンチン・ゴルデイエフ
ソ連保健省生物物理学部門・指導者代理・工学博士・教授

アンジェリカ・バラバノワ
ソ連保健省生物物理学部門・放射線医学総合病院長・医学博士

アレクセイ・ポバリャエフ
ソ連農工委員会研究所関連部門・部長代理・農学博士候補

----- p.13 -----


編集者のノート

 専門家というものは古い間違った考えの持ち主である。要約すれば「真実は専門家のみが知り得る立場にあり、素人が推論をおこなうことは有害で危険な行為である」と考えているのである。
 専門家の計画どうりすれば巨大な利益が発生するということが具体的おこなわれていた時期に、住民があまり力を持っていなかったことは悲劇であった。彼らの計画を遂行した結果として、アラル海やカラ・ボゴズ・ゴルが破壊され、バイカル湖が汚染された。また、ブラツク・アルミニューム工場建設のため、タイガの広大な範囲の森林が伐採された。そして、専門家が創り上げた農芸化学によって、あらゆる野菜は今や私たちの健康を脅かすものとなってしまった。
 住民がはじめて、シベリアにある大河の流れを変更しようとする専門家の計画を断念させたことは、住民にとって大きな励みとなった。今後、専門家が環境を無視するような行動を取るようなことがなくなることを人々は望んでいる。原子力は安全であるという、神話を前提として繁栄している現実から抜け出す必要があることをチェルノブイリは教えてくれた。チェルノブイリの失敗が再び繰り返されるならば、代償はとても高価なものにつくだろう。しかし、多くの官僚や専門家は原子力の甘い蜜に群がっているため、原子力の独占を続けることは彼らにとって便利で居心地のよいものとなっている。
 最近ソ連共産党中央委員会の呼掛けで、専門家機関《核複合体》とジャーナ

----- p.14 -----

リストの会合がもたれた。両者の意見は大筋で一致していた。報道関係者はときには、有害な門外漢として、あるいは権力者の発言を盲目的に受け入れる厄介者として、ときには原子力推進者の意見の掲載を望まない者として非難された。ジャーナリストは次のように答えた。チェルノブイリ原発事故が起こるまでは、全ての専門家はこのような事故は絶対に起こらないと言っていた。そして事故が起こった後になって、事故は起こってみないとどのようなものかは解らないのだという。このような状況で尚専門家を素直に信頼することができるだろうか。
 しかし、その話は別の機会に譲るとして、記事「チェルノブイリのこだま」とその反論を掲載した記事に話を移そう。以下のやりとりは会合での議論の様子をよく示している。話を始める前に、新聞(モスクワ・ニュース)はソ連閣僚会議核燃料及びエネルギー関連部門第一副議長ウラジミール・マリインの部下の三人の科学者から手紙を受け取ることになるだろう、という通告を受けたことを述べておく。そしてこの事実は、「チェルノブイリのこだま」に対するコメントが政府機関の命令によってなされた、と推測することができる。(手紙の筆者たちからではなく、その政府機関の長が繰り返し出版の日にちを問い合わせてきたという事実もこの推測を裏付けている)
 指導者の心配はよく理解できる: チェルノブイリ原発事故の後、原子力開発のプログラムを緻密に計画し直し、また考え直すことが必要になった。世論は政府の計画を左右するようになった。それで、当局の威信を失墜させるような傾向にあるすべての出版物が望ましくないのは、その出版物が〈反原発の新人を募集する〉ことになるからである。
 かくして、手紙の筆者たちは次のように主張する。――― 汚染地域における住民の健康は放射線によってではなく、流言卑語と〈偏向的な出版物〉によって損なわれたのだ、と。――― しかしながら、ナロジチ地区の党委員会と議会は住民への有害な影響を伝える記事「チェルノブイリのこだま」を掲載したことに対

----- p.15 -----

して、私たちモスクワ・ニュース紙に感謝している。
 科学者の返答はこうであった: ――― 調査のために地方へやってきた専門家は、子牛や乳離れしていない子豚の中に先天的奇形が増えている事実を確認する資料を発見できなかった: 1988年の記録はむしろ国の平均値よりも低いくらいであった。――― しかし、現地で活動している専門家よりも、中央から派遣されてきた専門家のほうが全てをよく把握しているということを信じる必要はない。ついでに、私たちの新聞は資料を入手している。すなわち、ある農場での具体的な数字だが、そこではすでに子供の家畜に先天性の奇形があることが記録されている。

 中央から派遣された医師は、増加しつつある病気の割合を記録している地方の学者の研究を何かしら疑っている風である。しかし、事故のあと影響を受けた地域に派遣されたのは、十分な資格を持っていない人たちが多かったことを多くのモスクワの放射線学者たちが認めている。そんなわけで、ここに長く住んだことのない中央の人が、過去と現在の条件の違いをよく理解できるのだろうか?
 「われわれは健康な生活をしているのだろうか? それとも、危険と同居しているのだろうか?」とモスクワ・ニュースの記者は、記事の中でナロジチ地区党委員会第一書記アナトリー・メルニクに尋ねている。三人の科学者は「住民の健康を気遣う理由はなにもない」と記者に語った。しかし、三人の科学者の手紙が印刷にまわっている問に、私たちは次のような通知を受け取っていた: ――― すなわち、新たにナロジチ地区にある三つの村の住民の疎開が決定されていた。そして同じ措置が、いくつかの他の村についても議論されている。疑問なのは3千人の退去である。もし危険がないのなら、なぜ住民は退去させられているのか?
 新聞に寄せられたいくつかの手紙の中から抜粋してみよう。135人の署名のある手紙がナロジチ地区の8つの村の住民を代表して送られてきた。「子供を見ると、母親の胸は張り裂けそうになります。最近、子供たちの健康は極端に悪

----- p.16 -----

くなってきています。子供たちはしばしば、気が滅入ったり、無気力になったり、慢性頭痛や視力の低下を訴えています。意識を失ったり、よく骨折する例がありました。学力が急に衰え、学校では多くの欠席者が出ています。笑顔はなくなり……。私たちは子供たちが川や森へ遊びに行くのを恐れています。そうしてはいけないと知りながらも、自家農園で採れたものを子供に食べさせているのです。それ以外に方法がないからです。店には《きれいな》作物が不足しているのに加えて、学校で子供たちは1日に1回だけしか食事を与えられていないのです。私たちは厳密にコントロールされている村(常時監視地域)――― 常時監視地域の子供たちは〈きれいな〉食べ物を1日に3回受けている ――― に加えられていません。私たちは明日が信じられません。」
 記事「チェルノブイリのこだま」は次の言葉で結んでいる。人々は、法律によって、彼らの生命が破壊されてゆくことに盲目であった当局に対して十分な賠償を要求する権利、すなわちお願いするのではなく要求する権利を有するのである。最近しばしば同じ考えが、新聞「コムソモールスカヤ・プラウダ」で、作家であり人民代理人であるアレス・アダモビッチによって語られた。彼は、チェルノブイリの他の二基の原子炉の停止をも勧告している。
 最近よく、チェルノブイリ原発事故と原子力産業の今日的状況についての報道規制がほとんどなくなったと言われる。しかし次のことは暗示的だ: すなわち我々が、原子力産業大臣の更迭が前もって決められていたといううわさについて質問したとき、ウラジミール・マリインは回答を避けたのである。
 人々に警戒心を抱かせストレスの元になっているのは《分別のない出版物》のせいではなく、当局の秘密主義なのである。もしあなたが診断ということで定期的に呼び出しを受けて、しかも診断結果と体内に蓄積された放射能の影響について何も知らされないとしたら、果して楽観的に物事を考えることができるだろうか? ついでに、モスクワ・ニュースへの投稿者ウラジミール・コリニコは、

----- p.17 -----

放射線薬物センターで薬物投与を繰り返し受けてきたが、自分自身についてのデータを何等受け取ることができていない。
 専門家と住民の関係に基本的変化が生じたときにのみ、原子力産業と政府当局に対する〈不信〉を取り除くことが可能だろう。チェルノブイリ原発事故後数年の間に溝ができてしまったあとでは、不信を取り除くことは困難であろう。結局、誰もが知っている通り《こだま》は呼びかけがあってはじめて返ってくるものである。したがって、こだまだけではなく、こだまを生じさせたものは何かを理解する必要がある。
 キエフ市党委員会第一書記グリゴリー・レベンコは「時間があるので、情報公開の雰囲気の中で公的な参加を得て、放射能状況調査の実行や病気の経過や原因に関する情報を出版物を通して定期的にきちんと発表していく必要がある。」と考えている。さらにまた、「生態学的損傷や放射線レベルについての真実の情報を覆い隠した人の責任を追求できるような法律を作る必要がある、と私は信じている。」
 私たちは、影響を受けた地方の住民と共に、アレス・アダモビッチが原子力産業のボスにたたきつけた質問に対する返答を待っている。多くの人々の健康と利益を3年間も無視するという許されぬ行為に対して、いったい誰が答えを出すべきなのか?
【1989年5月28日付 モスクワ・ニュース紙 No.22】

----- p.18 -----

チュコート半島で明らかになったチェルノブイリ規模の災害

北方に住む人々は核実験の《つけ》を払っている

 チュコート半島に住む住民の運命は、北方小数民族の今日の運命をよく示している。極端に短い平均寿命、高い乳幼児死亡率そのほか、目を覆いたくなるような現状はしばしば社会的原因 ――― 劣悪な住宅事情、栄養価の乏しい食料、高度医療の不足によって説明される。しかしながら、それだけが原因ではないようだ。環境の高いレベルの放射能汚染がそれである。
 われわれは、ソ連人民代議員の一員として、ソ連科学アカデミー社会科学研究所研究員とソ連科学アカデミー生物問題評議会の会員と共にチュコート半島を訪問中に、その事実を入手した。われわれが地区の党委員会を訪問した際、この恐るべき記録が金庫の中から取り出された。それは1960年代の前半からレニングラード放射線衛生研究所がこの自治区でおこなってきた調査の結論であった。この報告書は、この半島の住民が受ける放射線のレベルはソ連の平均値の2倍以上であり、チェルノブイリ原子力発電所の事故を経験した人々が浴びた放射線量の平均値に匹敵する。
 トナカイを飼育して生活するチュクチ人(チュコート半島に住む小数民族)にとって、地衣類からトナカイを経て人へという放射能の食物連鎖の最終に位置

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【訳注】チュコ・一ト半島はソ連東端にあるマランダ州東部にある半島で、ベーリング海を隔ててアメリカと対時している。
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するために、実際の放射線量はかなり高い。レニングラードの放射線衛生の専門家によれば、トナカイを飼育して生活する人の骨髄に含まれる鉛210の量はトナカイの肉を食べない人に比べて10〜20倍、身体全体に含まれるセシウムの量は100倍も高い。
 チュコート半島でバックグラウンド放射線が高いのは、1950年代と1960年代にこの地方の極北でおこなわれた大気圏内核実験がその原因である。軍事対決とは何の関係もなく平和に暮していた猟師とトナカイを飼育して生活する人々は、現在でも軍拡競争の恐ろしい《つけ》を払い続けている。
 一般に、放射線は主として人の免疫系に影響を与えることが知られている。それゆえに、この地では過去30年間に流行した病気の多さが目立っている。
 実際、100パーセントの住民[訳注]が結核で苦しんでおり、90パーセントの住民が慢性の肺疾患にかかっている。ソ連医学アカデミーのシベリア地域内科研究所によれば、高血圧患者の数は1595年(事実上ゼロ)から約20パーセントにまで増加している。
 ほぼ完ぺきに世聞かから隔絶した地域であるにもかかわらず、ビールスやバクテリアによる胃腸の病気や寄生虫による病気が絶えず発生している。しかし、放射線影響の最も深刻な証明は原住民の間にガンが広がり、その数が増加していることである。
 彼らがガンにかかる割合はこの国の平均と比べて2倍ないし3倍高い。食道ガンによる死亡率は世界で一番高い。肝臓ガンの発生は平均よりも10倍高く、肺ガンは3倍高い。白血病と胃ガンの発生は過去30年間で2倍以上になっている。乳ガンもまた増加している。しかし、最も重要なことはガンの種類が変化していることである。悪性腫瘍の新しい形 ――― 結合組織や骨の組織、甲状腺のガ

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[訳注]保菌者を含めた割合だと思われる。
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ンが発生している。われわれが訪れた最初の村で、村の議長が、実際にすべての大人が癌で苦しんでいる、と話してくれた。ほとんどの場合、この地域での悪性腫瘍は手遅れの状態で発見され、多くは死亡する。
 これらの事実はどのように原住民の平均寿命と乳幼児死亡率に影響を与えるのだろうか? 公式の統計の中に彼らを見つけようとしても無駄である。なぜなら、公式データは正確でないからである。レニングラードやシベリアさらに極東の数多くの学会がチュコート半島で入手したすべての有益な科学情報例えば人間生態学でのさまざまな問題、地域医療と人口統計学 ――― を集めそして分析して、われわれはチュクチ人の平均寿命は(事故による死亡をのぞいてさえも)45歳であると評価した。このことは公式記録よりも11歳も低くそしていかなる国に於いてもないような恐ろしい記録である。
 幼児死亡率に関して言えば、統計は実際よりも3〜4分の1少な目になっている。実際は1000人について70〜100人の乳幼児が死亡しており、この数値は過去6年間に6パーセント増加している。
 しっかりと結びついている生態学的問題と社会学的問題を断ち切らない限り、これらの問題を見極めることはできない。北方の人々の生存に関する問題はすでにソ連人民代表大会で議論された。この議論を実際の行動に移さなければならない。

ウラジミール・ルパンデイン博士(医学)
エブドキア・ゲイヤー博士候補(地理学)ソ連人民代議員

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編集者のノート

 新聞紙面にさまざまな地域の状況に関する報道が増えてきて、国民は彼らの存在に気がつくようになった。彼らはただ《体制の欠陥》についてのみ語る、しかし《人類に対する犯罪》に対して責任のある人々は語られることがない。事実の隠ぺいに関して有罪または責任のある人物を、たとえ在職中であれ退職して年金生活をしているのであれ、認定するときがきたようだ。モスクワ・ニュース紙はこのような議論を始める計画を進めている。
【1989年8月20日付 モスクワ・ニュース紙 No.34】

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(1989)チェルノブイリのこだま kohnoのブログ/BIGLOBEウェブリブログ
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